てきた。不美人ではないが、美人というほどの女でもない。たゞ背丈がスラリとして、五尺四寸ぐらいはあろうと思われ、ムッツリした、冷めたそうな女であった。
彼は女に酒をすゝめた。女はグイ/\呷ったが、却々酔った風がなかった。ヨッちゃん、ヨシ子という女であった。
「実は、先生に前もって話しておきゃアよかったのですが、目の前で、ザックバラン、隠し立てなく話した方が一興だろうと思いましてね」
彼自身は人に酒をつぐばかりで、殆ど飲まなかったが、すでに酔って、目がすわっていた。
「この人は私と同じ田舎の生れなんですが、父親が小学校の校長でしてね、女学校をでると、絵の勉強をしていたのです。そのうち、これが偶然でして、この人の東京の下宿の隣家が刺青の名人だったのです。今と違って、そのころは戦争中のことで、刺青なんてものを、人がざらにやるものじゃアない。めったにお客もなかったのですが、この人が奇妙な人で、紙に絵を描くだけじゃアつまらない、自分の身体にやってみたい、いっそ刺青をやってみたい、自分の手で自分の身体にやってみたいと考えたのです。そこで隣家の刺青の名人に弟子入りして、とうとう、自分で自分の身体に
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