じ》くが如き壮烈無比なる見幕に驚いた。怒り心頭に発したのは如水。豎子《じゅし》策戦を知らず、徒に壮語を弄して一時の快を何とかなす、然し、つとめて声を和げ、余勢をかつての前進は常に最も容易であるが、遠く敵地に侵入して戦線をひろげ兵力を分散して有力な敵の主力を邀《むか》へることは不利である。諺に「用心は臆病にせよ」とはこのことだ、と説いたけれども、もとより戦略などが問題ではない行長、焦熱地獄も足下にふんまいて進みに進む見幕は微塵も動かぬ。ボンクラ諸将は俄に心中動揺して、成程《なるほど》守る戦争は卑怯だなどゝ行長の尻馬に乗る。大将格の浮田秀家自体がこの動揺に襲はれてしまつたから、軍議は蜂の巣をつゝいた如く湧きかへつて、結局、行長の前進を認めてしまつた。
行長は平壌へ前進する。ほつとくわけにも行かぬから、平壌から京城にかけて俄ごしらへの陣立をつくり諸将が分担布陣したが、延びすぎた戦線、統一を欠く陣構へ。すでに戦争は負である。
如水は全くふてくさつた。怒気満々、病気と称して帰国を願ひでる。許可を得て本国へ引上げたが、今に見よ、行長め、負けてしまへ。果して行長は敗北する、全軍大混乱。ザマを見よ
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