会議がひらかれる。このときだ、隠居はしても如水は常に一言居士、京城に主力を集中、その一日行程の要地に堅陣を構へ、守つて明軍を撃破すべしと主張する。大敵を迎へて主力の一大会戦であるから理の当然、もとより全軍異議なく、軍議一決の如く思はれたとき、小西行長が立つて奇怪な異見を立てはじめた。
行長の意見は傍若無人、軍略の提案ではなく自分一個の独立行動の宣言にすぎないのだつた。諸氏、明軍来るときいて憶したりや、行長の調子は此《かく》の如きものだつた。源平の昔から勝機は常に先制攻撃のたまもの、之が戦争の唯一の鍵といふものだ。自分の兵法に守勢はない、よつて自分は即刻平壌に向つて前進出撃するが、否、平壌のみにとゞまらぬ。独力鴨緑江を越えて明国の首府に攻め入ることも辞さぬであらう。傲然として、四囲の諸将を睥睨した。
然り。行長は平壌まで前進しなければならないのだ。他の誰よりも先頭に立たねばならぬ必要があるからである。朝鮮が和平斡旋を拒絶したから、道は一つ、全軍の先頭にでゝ、直接明の大将と談判しなければならないのだ。
諸将はこのことを知らぬから、行長の決然たる壮語、叱咤、万億の火筒の林も指先で摧《く
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