列坐の公卿が居流れる。物々しい儀礼のうちに国書と進物を受けたけれども、酒宴が始まると、もう、ダラシがない。朝鮮音楽の奏楽が始まると、鶴松(当時二歳)をだいて現れて、之をあやしながら縁側を行つたり来たり、コレ/\泣くな、ホレ、朝鮮の音楽ぢや、と余念がない。すると鶴松が小便をたれた。秀吉アッと気付いて、ヤア小便だ/\。時ならぬ猿猴《えんこう》の叫び声。「容貌|矮陋《わいろう》、面色|黎黒《れいこく》」下賤無礼、話の外の無頼漢だ、と朝鮮使節はプン/\怒つて帰国の途についた。
さうとは知らぬ秀吉、名護屋に本営を築城して、大明遠征にとりかゝる。行長と義智は困惑した。遠征軍が平和進駐のつもりで釜山に上陸すると、忽ちカラクリがばれてしまふ。どうしても一足先に赴いて何とか弥縫《びほう》の必要があるから、ひそかに秀吉に願ひでた。即ち、朝鮮使節はあゝ言つて帰つたけれども、彼等は元来表裏常ならぬ国柄であるから、果して本心から道案内に立つかどうか分らない。日本軍が上陸してから俄に違約を蒙つて齟齬《そご》を来しては重大だから、彼らの本心を見究めるため、自分らを先発させて欲しい。朝鮮の真意が分り次第報告するが、
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