て明軍は数も多く武器もあるから、大敗北を蒙り、全軍に統一ある軍略を失つてゐる日本軍、一角が崩れるとたあいもなくバタ/\と敗退して、甚大の難戦に落ちこんでしまつた。
 如水は立腹、それみたことかとふてくされた。病気を理由に帰国を願ひでる。帰朝して遠征軍の不統一を上申し、各人功を争ひ、自分勝手の戦争にふけつて統一がないのだから、整備した大敵を相手にすると全く勝ちめがない。総大将格の秀家に軍議統一の手腕がないのだから、と言つて、満々たる不平をぶちまけた。もとより秀吉は不平の根幹が奈辺にあるか見抜いてゐる。如水も老いた。若い者に疎略にされて色気満々のチンバ奴がいきり立つこと。秀吉は、まだそのころは聡明な判断を失はなかつた。
 遠征軍はともかく立直つて碧蹄館で大勝した。然し、明軍も亦立直つて周到な陣を構へ対峙するに至つて、戦局まつたく停頓し、秀吉はたまりかねて焦慮した。自ら渡韓、三軍の指揮を決意したが、遠征の諸将からは、まだ殿下御出馬の時ではないと言つて頻りにとめてくる。家康、利家、氏郷ら本営の重鎮に相談をかけると、殿下、思ひもよらぬことでござる、と言つて各々太閤を諫めた。
 当時日本国内は一応
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