せて東西に攻めたてる。朝鮮軍が相手のうちは、これで文句なしに勝つてゐた。之は鉄砲のせゐである。朝鮮軍には鉄砲がない。鉄砲の存在すらも知らなかつた。彼らの主要武器たる弩《ゆみ》は両叉の鉄をつけた矢を用ひ、射勢はかなり猛烈だつたが、射程がない。城壁をグルリと囲んだ日本軍が鉄砲のツルベうち、百雷の音、濛々たる怪煙と異臭の間から見えざる物が飛び来つて味方がバタ/\と倒れて行く。魔法使を相手どつて戦争してゐる有様であるから、魂魄消え去り為す術を失ひ、日本軍が竹の梯子をよぢ登つて足もとへ首をだすのに茫然と見まもつてゐる。之では戦争にならない。京城まで一気に攻めこんでしまつた。
 そこへ明の援軍がやつてきた。明は西欧との通交も頻繁で、もとより鉄砲も整備してゐるから朝鮮を相手のやうには行かぬ。
 如水は明軍を侮りがたい強敵と見たから、京城を拠点に要所に城を築いて迎へ撃つ要塞戦法を主張、全軍に信頼を得てゐる長老小早川隆景が之に最も同意して、軍議は一決の如く思はれたのに、突然小西行長が立つて、一挙大明進攻を主張し、単独前進を宣言して譲らないから、軍議は滅茶々々になつてしまつた。結局行長は単独前進する、果し
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