時朝鮮遠征をかう言つた。大明進攻の意である)に受けた役目は軍監で、つまり参謀であるが、軍監は如水壮年時代から一枚看板、けれども煙たがられて隠居する、ちやうど之と入換りに秀吉帷幕の実権を握り、東奔西走、日本全土を睥睨《へいげい》して独特の奇才を現はしはじめてきたのが、石田三成であつた。
 如水はことさらに隠居したが、なほ満々たる色気は隠すべくもなく、三成づれに何ができるか、事務上の小才があつて多少|儕輩《せいはい》にぬきんでゝゐるといふだけのこと。最後は俺の智恵をかりにくるばかりさ、と納まつてゐたが、世の中はさういふものではない。昨日までの青二才が穴を填《う》め立派にやつて行くものだ。さうして、昨日の老練家は今日の日は門外漢となり、昨日の青二才が今日の老練家に変つてゐるのに気がつかない。
 如水は唐入の軍監となり、久方振りの表役、秀吉の名代、総参謀長のつもりで、軍略はみんな俺に相談しろ、俺の智嚢《ちのう》のある限り、大明の首都まで坦々たる無人の大道にすぎぬと気負ひ立つてゐた。
 けれども、総大将格の浮田秀家を始め、加藤も小西も、如水の軍略、否、存在すらも問題にせぬ。各々功を争ひ腕力にまか
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