フまなかつたのである。改造の西田義郎も当時の飲み仲間であるが、私はこの酒場で中原中也と知り合つた。
ある夜更け、河上と私がこの店の二人の女給をつれて、飲み歩き、河上の家へ泊つたことがある。河上は下心があつたので、女の一人をつれて別室へ去つたが、残された私は大いに迷惑した。なぜなら、実は私も河上の連れ去つた娘の方にオボシメシがあつたからで、残された女は好きではない。オボシメシと云つても、二人のうちならそつちが好きといふだけのことではあるが、当時私はウブだから、残された女が寝ませうよと言ふけれどもその気にならない。そのうちに河上が、すんだかい、と言つて顔をだした。彼は娘にフラレたのである。俺はフラレた、と言つて、てれて笑ひながら、娘と手をくんで、戻つてきた。この娘は十七であつた。
その翌朝、河上の奥さんが憤然と、牛乳とパンを捧げて持つてきてくれたが、シラフで別れるわけにも行かず、四人で朝からどこかで飲んで別れたのだが、そのとき、実は俺はお前の方が好きなんだと十七の娘に言つたら、私もよ、と云つて、だらしなく仲がよくなつてしまつたのである。
この娘はひどい酒飲みだつた。私がこんなに惚れら
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