。があつた。なぜあなたは結婚しようと言はないのか。言つてくれゝば、私はいつでも結婚するのに、といふ意味が。矢田津世子のあらゆる讃辞が、河田誠一にさゝげられて、私の前に述べられてゐる。その心のあたゝかさと、まじめさと、友情の深さに就て。それは、すべて、河田の彼女への忠告を彼女がうけいれたといふアカシであり、私に対するサイソクであつた。私はそれに対しても、たゞ、笑ひ顔によつてのみ、答へてゐた。
 私の心は、かたくなであつた。石の如くに結ぼれてゐた。
 要するに、私は自分の心情に従順ではなかつたのである、本心とウラハラなことをせざるを得なくなる。それが私の性格的な遊びのやうなもので、自虐的のやうでもあるが、要するに、遊びだ。私はそのころ牧野信一の家で、長谷川何とかいふ手相、指紋の研究家に手をみられて、君の性格はアマノジャクそのものだ、と言はれた。然し、アマノジャクとは何か。ヒネクレてゐるといふことの外に、アマッタレてゐるといふ意味があると私は思ふ。物自体よりも物を雰囲気的に受けとらうとする気分的なセンチメンタリズムも多分にあり、要するに、いゝところは一つもない。然し、本人は案外いゝ気なもので
前へ 次へ
全39ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング