鰍オて、物思ひに耽ることがあつたり、ふと気がついて女を見ると、私の目もさうであるに相違ないのだが、憎むやうな目をしてゐる。憎んでゐるのでもないのだけれども、他人、無関心、さういふものが、二人といふツナガリ自体に重なり合つた目であつた。
「憎んでゐる?」
女はたゞモノうげに首をふつたり、時には全然返事をせず、目をそらしたり、首をそらしたりする。それを見てゐること自体が、まるで私はなつかしいやうな気持であつた。遊び自体がまつたく無関心であり、他人であること、それは静寂で、澄んでゐて、騒音のない感じであつた。
そして私は矢田津世子の肉体を知らないことを喜んだ。その肉体は、この二人の女ほど微妙な魅力もこもつてをらず、静寂で、無関心である筈はない。私にとつて、女体の不完全な騒音は、助平根性をのぞけば、侘しくなるばかりだから。淫楽は悲しい。否、淫楽自体が悲しいのではなく、我々の知識が悲しい。
私は先ほどスタンダールのメチルドのことにふれたが、あれはどうも、ひどい誇張で、本心であるとは思はれない。私にとつて、矢田津世子はもはや特別な女ではなく、私は今に、もつとバカげた、犬のやうな惚れ方を、どこ
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