は食料品店だったからだ。ところが発狂当初辰夫は母をブン殴ったり首をしめたりしたものだから、辰夫という名前をきいても母親は厭な顔をする。気違いという病気は治るものじゃない。と言って僕に説教し、性こりもなく僕が毎日訪ねて行くものだから、この男も精神に異状があるのじゃないかと疑ぐりだすのであった。けれど毎日辰夫にせがまれるから仕方がない。之も神経衰弱療法の一つで、何でもいい、何かしら目的をもって行動しておればいくらか意識の分裂が和ぐのだから、僕は実にはやキチョウメンに、風速何百米の嵐でも出掛けて行った。どうせ先方の返事は分っているのだから、僕は諦めの良い集金人みたいのもので、店頭に立ち又来ました、というしるしにニヤリと笑う。すると先方はホラ気違いが笑ったというのでゾッと身顫いに及び、気違いにチーズやバタがいりますか、ゼイタクな、それを又、取りつぐ馬鹿がいるのだからネ、と言って怒るのである。フッフッフ。あいつ発狂して私に馬乗りになってネ、ホラ、まだ爪跡があるでしょう、締め殺そうとしたのですよ。実の母親をね。お前さんも厭な顔附だ。やりかねないよ。おお、怖わ。フッフッフ。と言うのであった。ヒステリ
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