二十一
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
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(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#二の字点、1−2−22]
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そのころ二十一であった。僕は坊主になるつもりで、睡眠は一日に四時間ときめ、十時にねて、午前二時には必ず起きて、ねむたい時は井戸端で水をかぶった。冬でもかぶり、忽ち発熱三十九度、馬鹿らしい話だが、大マジメで、ネジ鉢巻甲斐々々しく、熱にうなり、パーリ語の三帰文というものを唱え、読書に先立って先ず精神統一をはかるという次第である。之は今でも覚えているが、ナモータツサバガバトオ、アリハトオ、サムマーサーブツダサア云々に始まる祈祷文だ。一緒に住んでいた兄貴はボートとラグビーとバスケットボールの選手で鱶の如くに睡る健康児童であったが、之には流石に目を覚して、とうとう祈祷文を半分ぐらい否応なく覚えこむ始末であったが、僕はそういうことを気にかけなかった。兄貴はボートとラグビーとバスケットボールの外には余念がなく、俗事を念頭に置かぬこと青道心の僕以上で、引越すと、
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