あなたのような方にとって、宗教ぐらい誂え向きな住みかはない。俗念をすてなさい。三十円ぐらいの金は有っても無くても同じことです。執着をすて神様にたのんで大往生をとげなさい。さよなら。
婆さん訪問は毎日夜間の行事であったが、昼は昼で精神病院へ辰夫という友達を毎日訪ねていた。辰夫は周期的に発狂するたちで、当時全快していたが、公費患者というものは然るべき身元引受人がないと退院できぬ。発狂したとき霊感があって株をやり、家の金を持ちだして大失敗したり、母親へ馬乗りになって打擲したりしたから、家族は辰夫の一生を病院の中へ封じるつもりで、見舞いにも来ないのである。僕が毎日訪ねて行くから辰夫の感動すること容易ならぬものがあるが、こっちの方はそれどころではないので、気違いでも何でも構わぬ、誰かと喋っていなければ頭が分裂破裂してしまうという瀬戸際で、犯罪人が現場へ行ってみたがる心理と同じようなもので、僕も精神病院の底の底まで突きとめておきたいという気持もあった。犯罪者が刑事を怖れるように、僕も医者が煙たかったり、冷やかしてみたかったり、智恵くらべしたいような気になったり、そのころ受付に可愛い(と云ってもそ
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