かった。ほったらかしておくと、サイソクが急になったので、やむなく連日の医療訪問を中止してしまった。
ところが、僕が訪問を中止すると、まもなく、修三兄弟は遊びつめて首がまわらぬ仕儀となり、婆さんを置き去りに夜逃げする。婆さんは金光教の信者だったので、本郷の金光教会へ引きとられた。これらの出来事を僕は知らずにいたのである。
ある日、婆さんから手紙がきて、之までの事情が書いてあり、修三兄弟夜逃げの責任を問われて送金を絶たれたが、こんな筋の合わぬことはない。ぜひ力になって欲しい。占師にかけ合って貰いたい。ついては是非一度訪ねてきてくれ、と書いてある。仕方がないので教会を訪ねて行ったが、もう印象が殆んどないけれども、薄暗い六畳ぐらいの小部屋が幾つかあって、その一つで婆さんと会った。殆んど人の気配を感じない建物であった。婆さんはシクシクとシャクリあげながら、いつ終るともないグチ話。僕は一段落つくのを待ち、そのとき迄は全然念頭にもなかったことを急に思いついて言い、婆さんの呆気にとられるのを尻目にサッサと帰って来たのであった。僕は言った。お婆さん。あなたは世の中で一番気楽な隠れ家の中にいるのです。
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