いわず無数の注射の跡で肉が堅くなっているのだ。麻薬の常習者であった。押入の中からは、それを証拠立てるモルヒネのアンプルが多数現れた。
 たぶん二人の犯人は、奈々子に麻薬を注射してやると云って、より強烈なものを注射したのだろうと考えられた。しかし、波川巡査はそれを疑った。
「なるほど奈々子は二人の男を内輪の者だと云いはしたが、玄関で睨み合って口論していた見幕では、とても男に注射をさせたり、男の目の前で自身注射することすらも、ちょッと考えることができないなア」
 ところが、奈々子の小さな家から発見されたいろいろの物品は、甚しく意外で、また重大な事実を物語るものであった。
 押入の中に、外国製の果汁のカンヅメがいくつもあった。その空カンも一ツあった。ところが、その空カンには果汁が入っていたらしいような痕跡や匂いが残っていない。
 そのカンヅメをたくさん入れて送ってきたらしい大きなブリキカンがあるが、押入の中から出てきたカンヅメの数はその三分の一にも足らないぐらいだ。そして、不足分のカンヅメは奈々子の家から発見することができなかったのである。
 もっと意外なことは、そのカンヅメ荷物の包み紙らし
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