黒街の謎の女親分ミス南京」
「本当か」
 ミゾオチの痛みも吹ッとび、波川はいそいで服を着た。
 そのころ、東京横浜を中心に、大口の南京虫の密売者が現れた。これが凄いような絶世の美女だ。秘密に指定した場所へいずこからともなく現れて、無造作に大量の南京虫をバッグから取りだし、金とひきかえて、消え去ってしまう。その身辺には二人の護衛の若者がついていて、取引の終るまでピストルに指をかけて見張っている。麻薬を扱うこともある。どこの何者とも分らないが、仲間の間ではミス南京とよばれている。当局はようやくスパイをいれることに成功して、ミス南京の存在までは突きとめたが、密輸のルートはおろか、ミス南京の住居も名も分らないのだ。
 ところが殺された奈々子の屍体のかたわらから、ミス南京の謎を解いてくれるらしい多くの重大な物が現れたのである。
 奈々子は腕に麻薬を注射して殺されていた。和服姿で、すこしも取り乱したところなく、眠るように安らかに死んでいる。盗品がなければ、むしろ自殺と考えられるような死に方であった。
 ところが、奈々子の屍体を調べた警察医はビックリして思わず声を発したほどだ。奈々子の腕といわず股と
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