い。塀をとび降りた場所にいくらか乱れが目につくだけだ。
「オヤ、なんでしょうね」
懐中電燈で執念深く捜しまわっていた百合子は、男がとび降りた地点の木の根に、小さな光るものを見つけて取りあげた。
「金の腕時計だわ。婦人用の南京虫。男が南京虫を腕にまくかしら?」
奇妙な謎の拾い物であった。
[#5字下げ]殺されていた奈々子[#「殺されていた奈々子」は中見出し]
翌日、非番の波川巡査はミゾオチを打たれた痛みもあって、午すぎも寝ていた。すると、飛ぶように戻ってきた百合子に叩き起された。
「大変よ。比留目奈々子が殺されたのよ。殺されたのは昨夜です。あの二人が犯人よ」
波川は痛みも忘れて跳び起きた。
百合子も下アゴを打たれて唇をきり、アゴが腫れて、美人婦警も惨たる面相。人に顔を見せたくないから休みたかったが、昨夜の報告があるので、署へでてみると、奈々子殺し発見の騒ぎである。
「犯人の顔を見たのはお父さんだけですから、すぐ来て下さいッて」
「あの二人が犯人ときまってるのか」
「確証があるらしいわ。ほかに、いろいろ重大なことが判ったらしいの。殺された奈々子は意外の大物らしいんですって。暗
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