いものが現れたが、それは香港から羽田着の飛行便で奈々子宛に送られたことを語っていた。そしてたしかに香港から発送された証拠には、それを包むに用いたらしい香港発行の新聞紙がたくさん押入の奥に押しこまれていたのであった。
さらに意外なことがあった。机のヒキダシの中や、ハリ箱の中や、筆入れの中からまで、無造作に合計五十三個という南京虫腕時計が現れたのだ。
屍体のかたわらに奈々子のハンドバッグがひッかきまわされて捨てられていたが、その中にもひッかきもらした南京虫が一ツ残っていた。たぶん犯人はハンドバッグの中にあった南京虫だけ盗み取って行ったらしい。
「すると比留目奈々子がミス南京だったのか。なるほど、死顔ですらも、思わず身ぶるいが走って抱きつきたくなるような美人だねえ」
「香港から飛行機で送られてくるカンヅメのうち約三分の一が本物の果汁で、他の三分の二が南京虫というわけか」
「犯人がボストンバッグをぶらさげてきた謎が、それで解けるわけだな」
そこで羽田の税関はじめ関係局の配達夫等にまで調査をすすめてみると、この荷物が奈々子のもとへ送られてきたのは当日の午前中のことだ。ところが、それ以前にも
前へ
次へ
全27ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング