往復した自動車、二台」
「イヤ、それじゃない。片道だけしか行かなかった自動車なんだ。嵐山まで、片道人を運んだ自動車、みんな探してつれてこいよ」
「全部ですか」
「全部。起点は、どこからでもいい。ただし、昨日の夕方の五時ごろから、嵐山まで人を運んだ自動車。そして、男を運んだ自動車だけでいい。又、乗客が一人よりも多いのは、よばなくともよい。夕方五時から深夜の十二時ごろまで、一人の男をのせて嵐山へ走った自動車、全部よぶのだ」
 居古井警部は、ちょッと考えて、言葉をつけたした。
「もう一つ、もっと重大な、しかし、もっと雲をつかむような探し物があるんだがな。第一に、アパート。次に下宿。素人下宿もだ。シモタヤでも別荘でも寺院でもね。それから、旅館。あらゆるところを尋ねてくれ。部屋を借りていて、借り手が時々しか現れないというところを、みんな突きとめるのだ。そして、借り手が、昨夜、現れなかったか、きいてくるのだ。借り手は男、中年の男だ」
 各署からの応援が集ると、居古井警部は、部屋と、自動車と二つの部隊に分けて、一同に注意を与えて、それぞれ区域を定めて八方に捜査に散らした。
 そして、岩矢天狗と、煙山
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