車とすれ違ったろう」
「さア、どうですか、覚えがありませんよ」
「だって、あんな淋しい道に、かなり、おそい時刻だもの、印象に残りそうなものじゃないか」
「でも、考えごとをしていたせいでしょう」
「そうかい。どうも、ありがとう」
 居古井警部は、長い瞑想の後、呟いた。
「どうしても、犯人はあれだけしかないネ、ハッキリしとるよ」
 そして快心の笑《えみ》をもらした。


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    犯人は誰か?

「投手殺人事件」の凡《すべ》ての鍵は、これまでに残らず出しつくされました。作者は、もはや一言半句の附言を要しません。
 クサイあやしい人間が右往左往して、読者諸君の推理を妨げますが、諸君は論理的に既に犯人を充分に指摘することができる筈です。
 犯人は誰でしょうか?
 さア、犯人を探して下さい。
[#ここで字下げ終わり]


   解決篇

 居古井警部は立ち上って命令した。
「すまんが、各署へ、応援をたのんでくれ。印象が稀薄になると、困るんだな。今日中に探しだすのだ」
「何をですか」
「自動車だ」
「自動車は、もう、探しにだしています。岩矢天狗と上野光子をのせて嵐山を
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