いかな」
「まったく、妙ですな。尾行の様子をくわしく話して下さい」
 そこで木介が得たりとばかり、ルル説明に及ぶ。
 そこへ煙山が連れられてきたので、二人と入れ換ったが、煙山は中折帽に白いマフラー、二つのカバンをぶらさげて現れた。それを見ると、木介が、すれ違いざま、頓狂な叫びをあげた。
「アレレ。この人は手品使いかな。昨日は鳥打帽に黒っぽいマフラーだったぜ」
 煙山はギロッと木介を睨みつけて、居古井警部の前に立った。すすめられて椅子にかけると、彼はクスリと笑って、カバンをあけ、
「ホレ。鳥打と黒っぽいマフラーはここにあります。私らはなるべく人目を避けねばならぬ商売だから、いろいろ要心しますな」
「なるほど。上野光子さんも、そう申しておられましたよ」
「彼も女子《おなご》ながら、相当、やります」
「あなたは昨日、契約金と契約書を持って、上方《かみがた》へ乗りこんでいらしたのですね」
「その通りです」
「大鹿選手と契約を結ばれたのは、何時ごろですか」
「イヤ。それが奇妙なのですよ。汽車が米原《まいばら》へつくと、大鹿が乗りこんできたのです。どうして、この汽車に乗ってることが分ったか、ときい
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