乱していたのですから」
「そして、何時ごろ、そこを出たのですか」
「十分か二十分、居所が分ったツイデに、ちょッと冷やかしに寄っただけよ。十分か二十分ぐらい。表に車を待たせておいたのですから」
「あなたはタバコを吸いましたね」
「もちろん。私はタバコなしに十分間空気を吸っていられませんよ」
こう言うと、彼女はケースからタバコをとりだして、火をつけた。
「あなたは、ワザワザ京都にアパートをお借りなんですか」
「プロ野球の関係者は、たいがい、そうです。しょッちゅう東西を往復しますから。一々旅館へ泊るより、アパートを借りとく方が便利なんです。スカウトなんて、人目を忍んで仕事を運ぶ必要がありますから、たいがい人に知れないアジトを持っているものです。煙山氏ぐらいのラツワン家なら、アジトの三ツ四ツ用意があるにきまっています」
「あなたは一ツですか」
「ええ、一ツ。カケダシですから」
「あなたは煙山氏のアジトを知ってますか」
「いいえ。それを人に知られるような煙山クンではありませんね」
「すると、あなたが大鹿君のもとを立ち去る時は彼氏ピンピンしていましたね」
「私が殺したとでも仰有るのですか」
「い
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