謀して、三百万円まきあげるための仕事なのです」
「ホホウ。なぜ、そんなこと知ってますか」
「私は駅の改札口で二人の着くのを待ってたのです。二人は改札口から出てきましたが、岩矢天狗が葉子にこう言ったのです。オレは今夜、さむい夜汽車にゆられて帰るが、同じ時間に女房が男とイチャついていると思うと、なさけねえな、と。すると葉子が、三百万円なら大モウケよ、とナレナレしいものでした。私はムラムラ癪にさわったのです」
「なるほど。それだけですか」
「それで充分じゃありませんか」
「あなたは煙山氏に会いませんでしたか」
「会いません」
「大鹿君に会ったのは何時ですか」
「正午から三十分ぐらい」
「いいえ、昨夜の訪問時刻をおききしているのです」
 光子はチラと反抗の色をみせたが、投げすてるように云った。
「九時半ぐらいでしょうよ。何の用もなかったのよ。ただ、河原町四条の喫茶店で、中学生が大鹿さんの話をしていたのです。青嵐寺の隣のアトリエにいると話しているのを小耳にはさんだので、何の用もなく、ブラブラ、行ってみる気になっただけ」
「そのとき、一服君に会いませんでしたか」
「アトリエにちかいところで、すれ違
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