訳なんです」
「どうも、早朝から、御足労でした、もう、ちょッと、待っててください」
一服の証言を信用すれば、彼が帰ったあとで、女が、イヤ、男かも知れないが、とにかく口紅をつけた人物が訪ねて、タバコを二本吸っているのだ。
居古井警部は光子をよんだ。
「ゆうべおそかったようですね。今朝は又、早朝から、御足労でした。昨夜、何時ごろでしたか、大鹿君を訪ねたのは」
光子はフンとうそぶいて、返事をしなかった。その肉体は、小気味よく延びて、堂々たる威勢を放っていた。
「立派なおからだだな。何寸ぐらいおありです」
「一メートル六六。体重は五十七キロ」
「五十七キロ。まさに、ボクと同じだ。ところで、大鹿君からトレードの依頼があったそうですが、その話は、どんな風になっていますか」
「契約が成立したならお話できますが、私のは未成立ですから、公表できません。球団の秘密なのです」
「しかし、大鹿君が移籍すると聯盟の規約にふれて球界から追放されるから、結婚から手をひけと暁葉子さんを脅迫なさったそうですが」
「脅迫なんか、するもんですか。暁葉子こそ、曲者《くせもの》なんです。あれはツツモタセです。岩矢天狗と共
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