んです」
「大鹿君の返事はどうでした」
「簡単ですよ。大鹿はほかの女と結婚する筈だと云うんです。お光には拒絶したと断言しました。今後お光から手をひくかと訊くと、ひくも、ひかないも、ほかの女と結婚するのに、お光とかかりあっていられる筈がないと云うので、話は簡単明快ですよ。ボクは安心して、すぐ、ひきあげました」
「それは何時ごろです」
「そうですね。九時ごろ訪ねたんですから、まア、二十分ぐらい話を交して、すぐ帰りましたな。新京極で祝杯をあげて、帰って寝ました」
「君は、大鹿君のところでタバコを吸いましたか」
「どうだったかな。ああ、そうだ。吸いました。灰皿かせ、と云うと、ドンブリ持ってきましたよ。奴、タバコを吸わないらしいです」
「そのドンブリは、誰かの吸いがらがはいっていましたか」
「いいえ、洗ったドンブリです。何もはいってやしません」
「ヤ、どうも、ありがとう。ああ、ちょッと。大鹿君はラッキーストライクへ移籍の話をしませんでしたか」
「いいえ、そんな話はききません。ただ金のいることがあって、お光にトレードを頼んだと云っていました。そのためにお光と会うだけで、結婚の話などはないという言い
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