かに特に注目すべき指紋は見当らない。
一、兇行時間は、警察医の検視によっては午後九時より十二時ごろまでの間とあり、尚正確には解剖にまつ筈である。
まだ夜の白々明けという時刻に、刑事は一服投手の寝込みを襲って、捜査本部へ連行した。また、名刺に書かれたアパートから、上野光子が連行されて来た。
二人の部屋は、それぞれ捜査したが、血のついた衣類や、紛失した札束は発見されなかった。
ほかに捜査本部で捜しているのは煙山と岩矢天狗であるが、まだ煙山の宿は、彼らに知られていないのである。
まず一服が取調べをうけた。
捜査の主任は京都にその人ありと知られた名探偵、居古井《いこい》警部である。
「君は昨夜、大鹿君のところへ行きましたね」
「ええ。お午《ひる》すぎ、一時ごろから、夜の九時ごろまで探してとうとう彼の隠れ家を突きとめたんですからね」
「夕飯もたべないで」
「それは食べましたよ」
「どうして、そうまでムリして探す必要があったんですか」
「一時も早く解決したい問題があったんです。ボクは上野光子にプロポーズしたんですが、お光は大鹿と結婚したいと云うんです。そこで大鹿の本心をきく必要があった
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