を検視して現場は鑑識員の徹底的な調査と、それから、家探しが行われた。
 判明した事実で、特に注目すべきところは、次のようなものだった。
 一、大鹿はラッキーストライクと新契約し、三百万円受取ったらしいが、その三百万円は紛失している。
 一、契約書は俯伏した胸の内ポケットにあり俯伏していたので、血によごれていないが一月十九日に契約したものである。大鹿の署名は墨筆で書かれているが、この部屋には、墨汁も毛筆もない。
 一、出血の状況から見て、加害者の衣服は血を浴びているであろう。
 一、刺傷によって判ずるに犯人は相当の腕の力があるらしい。
 一、大鹿のズボンのポケットに、上野光子の名刺があり、東京の住所は印刷してあるが、京都のアパートの所番地が鉛筆で書きこんである。光子自身の手らしく、女手である。
 一、血にぬれた靴跡と手型があるが、被害者のものでもなく、葉子のものでもない。
 一、テーブルの上に、ドンブリを灰皿の代りにして、二三本の外国タバコの吸いガラがあり、二本には口紅がついており、一本にはついてない。
 一、しかし、来客に湯茶を接待した形跡はない。
 一、被害者の指紋は諸方にあるが、ほ
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