は、まだ取極めていなかったのです。私はそれを主張して、上野さんと争論になりましたが、果しがないので、立上りました。そんなことで、二三十分、費したでしょう。そして私は自動車を拾って、ここへ一人できたのでした」
「この隠れ家を知ってるのは誰々ですか」
「二人のほかに、私が教えてあげたのは、煙山さんと、岩矢だけ、あとは心当りがありません」
ところが母屋の葉巻太郎が、意外な証言をした。
「今夜九時ごろでした。一服さんがウチの玄関へきて、ここに大鹿さんが泊ってるだろうと仰有るのです。私がアトリエへ案内してあげました」
「一服って、どんな人だね」
「ピースの左腕剛球投手、一服さんですよ」
「アッ。そうか。そして、そのほかに、訪問客はなかったのですか」
「それは分りません。一服さんは、ウチへきてお訊きになったから、分ったのです。さもなければ、かなり離れていますし、木立にさえぎられていますので、アトリエの様子は分らないのです。それに冬は、日が暮れると、雨戸をしめてしまいますから」
「何か変った物音をききませんでしたか」
「何もききません。よく睡っていましたから」
そこで所轄署に捜査本部をおき、屍体
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