か。どんな辛い勉強もします」
「それが、どうしたというんだ」
「十年かかってスターになれるなら、そのときの出演料を三百万円かしていただきたいのです」
 葉子は蒼ざめた真剣な顔で、細巻の呆れ果てたという無言の面持を見つめていたが、やがて泣きくずれてしまった。
 ミノリが代って物語った。
「葉子さんの愛人はチェスターの大鹿投手なんです」
「やっぱり、そうか」
「家出なさった時から、私、相談をうけて、かくまってあげたり、岩矢天狗さんと交渉したりしたのですが、天狗さんは、手切れ金、三百万円だせ、と仰有《おっしゃ》るのです。大鹿さんは、昨日、関西へ戻りました。三百万円で身売りする球団を探しに。葉子さんは反対なさったのです。一昨日は一日云い争っていらしたようです。そして、大鹿さんに選手としての名誉を汚させるぐらいならと、社へ借金にいらしたのです。葉子さんのフビンな気持も察してあげて下さい」
「ふむ。大それたことを、ぬかしよる」
 大声で叱りつけたが、神経が細くては出来ない撮影所勤め、太鼓腹をゆすって、案外平然たるものだ。しかし、頭に閃いたことがあるから、二人を部屋に残しておいて、スカウトの煙山の部
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