名な野球新聞だ。
細巻が部長室へはいると、若い部員がきて、
「暁葉子と小糸ミノリがお目にかかりたいと待ってますが」
「フン。やっぱり、本当か。つれてこいよ」
暁葉子はかけだしのニューフェイスだが、細巻がバッテキして、相当な役に二、三度つけてやった。メガネたがわず好演技を示して、これから売りだそうというところ。細巻もバッテキの甲斐があったといささか鼻を高くしていた矢先であったから、はいってきた葉子とニューフェイス仲間のミノリを睨みつけて、
「バカめ。これからという大事なところで、一ヵ月も、どこをウロついて来たんだ。返事によっては、許さんぞ」
「すみません」
葉子は唇をかんで涙をこらえているようである。父とも思う細巻の怒りに慈愛のこもっているのが骨身にひびくのである。
「言い訳は申しません。私、家出して、恋をしていました」
「オイ。オイ。ノッケから、いい加減にしろよ」
「ホントなんです。せめて部長に打開けて、と思いつづけていましたが、かえって御迷惑をおかけしては、と控えていたのです」
「ふうン。誰だ、相手は?」
葉子はそれには答えず、必死の顔を上げて、
「私の芸に未来があるでしょう
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