ぎるぜ」
「商売ですよ。察しがついてらッしゃるくせに。会わして下さい。たのみますよ」
「ま、待ってろ。門衛《もんえい》君。この男を火鉢に当らせといてくれたまえ。勝手に撮影所の中を歩かせないようにな。たのむぜ」
暁葉子は年末から一ヵ月ちかく社へ顔をださないのである。暮のうち、良人《おっと》の岩矢天狗《いわやてんぐ》が、葉子をだせと云って二三度怒鳴りこんだことがあった。天狗は横浜の興行師で、バクチ打、うるさい奴だ。葉子の衣裳まで質に入れてバクチをうつという悪党で、今まで葉子が逃げださないのが、おかしいぐらいであった。
しかし、葉子に恋人があるという噂を小耳にしたのは、ようやく三日前だ。おまけに、その恋人が、職業野球チェスター軍の名投手|大鹿《おおしか》だという。猛速球スモークボールで昨年プロ入りするや三十勝ちかく稼いだ新人王で、スモーク・ピッチャー(煙り投手)とうたわれている。
この話が本当なら宣伝効果百パーセントというところだが、あんまり話が面白すぎる。いゝ加減な噂だろうと思ったが、羅宇木介が執念深く葉子を探しているのに気がつくと、ハテナと思った。専売新聞はネービーカット軍をもつ有
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