0_02.png)入る]
大鹿は戸口から一間ぐらいのところから、斜、中央に向って俯向きに倒れている。傷はいずれも背後から鋭利な刃物で突かれたもので、背中に四ヵ所、頸《くび》一ヵ所、メッタ刺しにされている。
あたりは鮮血の海であった。壁から天井まで、血しぶきがとんでいる。
暁葉子は訊問に答えて云った。
「私がここへ来ましたのは、午前零時ちょッと過ぎたころと思います。入口の扉には鍵がかかっていませんでしたが、アトリエの灯は消えていました。私は、しかし、扉をあけて、はいった右側にスイッチのあるのを知ってますから、すぐ電燈をつけました。私は室内を一目見て、茫然としました。駈けよって、ちょッと抱き起そうとしたように覚えています。もう大鹿さんの死んでいることに気付いて、私はその場に気を失ってしまったのです。ふと、我にかえって、葉巻さんの庭の雨戸をたたいたのです」
たしかに葉子は血の海のなかに倒れていたに相違なかった。衣服も、顔も手も、血まみれであった。
「ハテナ。誰か屍体につまずいたのかな。ここに血にぬれた手型がある。あなたは、つまずきやしなかったでしょうね」
「私はつまずきません。すぐ灯
前へ
次へ
全60ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング