「ハア。そうかい。こッちは一向に元気がもどらねえや」
 と、それでも車をとばして駅へ行ってみたが、急行列車は時間キッチリついて、もとより、急行から降りた客が、今ごろうろついている筈がない。
 二人は宿をとって、まさにヤケ酒をのむこととなってしまった。

   その四 殺人事件

 おそらく二人がまだヤケ酒をのみ終らない時刻であったろう。
 午前二時半ごろであった。
 大鹿にアトリエをかしている葉巻家の庭に面した廊下の雨戸をたたいて、助けをもとめる女の声が起った。葉巻太郎、次郎の兄弟が雨戸をあけると、立っているのは血まみれの暁葉子である。
「アッ。暁さん。どうしたんですか」
「大鹿さんが、殺されています」
「エッ。あなたは、どうかなさったんですか。どこか、おケガを」
「いいえ、私、気を失って、倒れてしまったのです。今まで気を失っていました。はやく、警察を」
 そこで、警察の活動となったのである。
 アトリエは二間半に三間の洋室が一間だけ。ほかに手洗い場と便所が附いているだけだ。ベッドと、洋服ダンスと、机と、テーブルに椅子が三つある。(図面参照)
[#アトリエ内の配置図(fig4319
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