追跡。新淀川を渡って、吹田《すいた》の近くへ戻ってきて、小さな住宅の前へとまる。
 金口は自分で降りていって、煙山の運転手に、
「オレたちは怪しいものじゃない。新聞記者だ。ちょッとワケがあって、つけているから、つけ易いようにカーブのとき、たのむぜ」
 と、チップをにぎらせた。
 そして煙山のはいった家の門札を見ると、驚いた。キャメル軍の猛打者桃山外野手の住居である。
「敵は桃山か。こいつは、虚をつかれたな。さすがに、やりおるわい」
 十四五分もたつと、煙山は出てきた。又、追跡、車は国道をブッ飛ばしてグングン京都の方角へ戻る。細い道へまがりこんで、辿りついたのが、山崎の里。相当な門構えの家の中へ、煙山は消えこんだ。
 そこの門札をしらべると、ピース軍の至宝、好打の国府一塁の生家である。
「いよいよ出でて、いよいよ奇、やりおる、やりおる」
「怪物の名にそむきませんなア。敵ながら、アッパレな奴ッちゃ。これで札束がだいぶ減りおったろう」
 木介は札束ばかり気にしている。
「モク介。この契約金、いくらと思う」
「罪なこと考えさせる手はねエですわ」
 また十四五分で煙山が現れる。
 自動車は一散に
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