てた近所の人にきいてみたが、みんな知らないってさ。それから一応、アミダナを見て歩きましたが、あのトランクらしきものは二ツとも無くなってますな。コチトラ、自慢じゃないが、トランクに札束あり、と見破ってこのかたツラツラ目に沁みこませておきましたんで、見忘れないツモリですわ」
 京都へつく。
 二人は改札口のところにガン張って目を皿にしていたが、煙山は下車してこない。降車客は見えなくなった。
 停車時間は十五分もあるから、乗換線のプラットホームをしらべたが、見当らない。念のため、もう一度、車内をテンケンすると、京都で乗客の大入換りがあって、かなり空席も目に立つ中に、いる、いる。
 煙山は今度は最前部の二等車のマンナカあたりにマフラーで顔を隠し、オーバーの襟を立てて、雑誌をよんでいる。例のカバンは座席の下へ押しこんで足でおさえている。
「実に要心深い奴だ。しょッちゅう座席を変えてやがんですよ。こうなったら、にがさねえ。コチトラ、ここで見張りますよ」
「よし。オレも見張るよ」
 二人は気付かれぬように、彼の後方、はなれた空席に座をとった。
 煙山は大阪で降りた。自動車を拾う。二人も自動車を拾って
前へ 次へ
全60ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング