京都へ。
「なるほどねえ。ちゃんと諸事片づけて、大鹿の隠れ家へか。敵は順を考えとる。コチトラの追跡、知ってやせんですか」
「そうかも知れん。汽車の中から、ちゃんと見抜きおったかな」
「どうも、いけませんわ。札束のヘリメにしたがって、コチトラの腹がへるらしい。はやくヤケ酒がのみたいな」
 車は京都の市街へはいった。車の止ったところは、河原町四条を下って、はいった、裏通りの、小粋な家。しかし、小ッちゃな、料理屋のようなところ。しかし、旅館の看板がぶらさがっている。そこまで送って自動車は戻っていく。二人も車を降りた。
「さては、ここが大鹿の隠れ家かな。よろし、こうなったら、オイラも泊りこんでやれ」
「よか、よか」
 二人が旅館の玄関へ立つと、老婆がチョコチョコ出てきて、
「おいでやす」
「お部屋ありますか」
「お部屋どすか。あいにくどすなア。満員どすわ」
「今、一人、はいったでしょう」
「ハア、予約してはりましたんや」
「ズッと長く泊ってる人が一人いるでしょう」
「どないなお人どすねん」
「六尺ぐらいの大きい男」
「知りまへんなア」
「今、はいった人の知り合いの若い大男」
「知りまへんなア」
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