かった。
 光子はジダンダふんだ。どうしても、大鹿の住所を突きとめねばならない。突きとめてみせる。そして、復讐してやる。ラッキーストライクへの移籍話をぶちこわして、三百万円をフイにさせ、岩矢天狗への支払いを妨害してやる。そして、自分に縋らざるを得ないようにしてみせる。天下の女スカウト上野光子は誰にも負けない女なのだ。
 何時に着くかは知れないが、今夜中には煙山が来る筈だ。なぜなら、明朝までに、三百万の契約金を大鹿に手渡す必要があるだろうから。彼女は煙山を京都駅に張りこんでやろうかと思った。しかし、張りこんで、後をつけたにしても、その時はもう彼らの商談の終りだ。
 光子が考えこんで歩いていると、一服投手にパッタリあった。
「さっきは、よくも、捨てゼリフを残して逃げたな。ヤイ、お光」
「なによ。天下の往来で」
「フン。どこだって、かまうもんか。キサマ、ほんとに大鹿と結婚するのか」
「フフ」
「オイ。もし、結婚するなら、キサマか、大鹿か、どっちか一方、殺してやる」
「すごいわね」
「なア、オイ、ウソだと云え」
「さア、どうだか。今のところ、ハッキリしないから。二三日うちに分るわよ。大鹿さんと
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