快な気持がこみあげてきたが、しかし、この先どうしたらいいのか、思えば、クラヤミがあるだけだ。胸がつぶれる悲しさである。
「なにを、ふさいでいるのよ。ほがらかに、ハッキリなさいな。私と結婚するのよ。そして、ネービーカットへ移籍するのよ。煙山クンや、ラッキーストライクの卑劣さを嘲笑ってやりましょうよ。私、あなたのために、二百万円失うぐらい、なんとも思っていないわよ」
大鹿は冷めたく目をあげて、
「あなたと結婚するんでしたら、こんなに骨身をけずる思いをして、三百万円で苦労しやしませんよ」
光子の顔色が変った。
「なんですって?」
「ボクは暁葉子さんと結婚したいのです。そのために、こんなに苦しい思いをしているのです」
「フン。結婚できないわよ。岩矢天狗に三百万円、払えないもの」
「その時の覚悟はきめていますよ。どなたのお世話にもなりません。自分一人で解決します。色々と面倒なことお願いして、すみませんでした。失礼します」
「お待ち!」
「いえ、ボクの気持をみださないで下さい」
クルリとふりむくと、ひきとめる手をふりはらって、大鹿は、立ち去ってしまった。光子が追って出た時は、もう大鹿の姿はな
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