かします。ボクは覚悟しました」
「なんの覚悟よ」
 大鹿は男らしく、顔に決意をみなぎらした。
「そのときは、たぶん、死にますよ」
「バカね」
 光子は苦笑したが、やがて顔色をやわらげた。
「未来の世界的大投手が、そんなことで死ぬなんて、ダラシないことね。私の言うこと、ききなさいな。私からお金をもらうイワレがないって云うけど、私と結婚しましょうよ」
 大鹿はビックリして目をあげた。
「おどろくことないでしょう。去年の夏は、たのしかっわね。私、あなたの初登板の時から、日本一の大物だと思ったわ。ピースの豪球左腕投手|一服《いっぷく》クンが嫉いてね。なぜ、あんな小僧を相手にするんだ。なんて、つめよるのよ。小僧なんて、何云うのよ。あんたの三振記録なんて、小僧クンにたちまち破られるからって、言ってやったのよ。一服クン、去年の暮ごろから、しつこく私にプロポーズしてるのよ。今日も、街で出会ったの。一服クン、京都に住んでるでしょう。でね、すぐ結婚しよう、泊りに行こうなんて云うから、ハッキリ云ってやったの。私は二三日中に、大鹿さんと結婚するんですって。一服クン、青くなって、怒ったわよ」
 大鹿はなんとも不
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