よ」
「君は今夜たつのかい」
「いえ、明朝たちます。夜汽車に金を運ぶのは危険ですし、上野光子にぶつかっても、まずいでしょう。朝の急行の一番早いの、七時三十分にたちます。九時発の特急ツバメが、おそく発車して早くアチラへ着くのですが、特急は知った顔に会いますから、わざと七時三十分にたちます」
「よかろう」
夕方まで時間があるので、小糸ミノリの家を訪ねて、暁葉子に会った。三百万円の契約がととのったムネを知らせると、安心して、涙ぐんでしまった。
「君も明日、京都へ行くそうじゃないか」
「ええ」
「あんまり、目立たないようにしてくれよ。何時の汽車だね」
「午後一時、東京発。京都へは夜の十一時ちかくに着くはずなんです。岩矢と約束があるのです。汽車のなかで岩矢と二人だけの話をつけるつもりなのです」
「それは大鹿君が知っているのかね」
「いいえ」
葉子は、苦しそうに、うつむいた。
「ずいぶん危険な話じゃないか。私が京都駅へ出迎えてあげようか」
「いいえ、危険はありません。身をまもる方法を知っていますから」
「そうかね。まア、気をつけてくれたまえ」
午後三時半ごろ、煙山は五百万円うけとった。千円札
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