たのです」
「それは困ったな。今日は十七日だね。十八日朝ついて、夜行で発って、十九日朝ついて、上野光子をだしぬくことはできるが、そうまでする必要はあるまい。私の方は確実なのだ。夜汽車で金を運ぶのは危険だから、十九日の朝たって夕方つく。私の方はハッキリしているのだから、上野光子がどうあろうとも、キッパリ拒絶してくれないか。さもなければ、上野をスッポカして会わないようにしてもらいたい」
「ハア。確実なら、そうします」
「むろん、確実だ。二十日に岩矢天狗に金を払うのは、どこだ」
「岩矢天狗が京都にくることになっています。葉子さんも、十九日の夜、こッちへ着くことになっています」
「そうかい。それなら、十九日中に間に合えばいいわけだ。かならず、約束を守るから、君も守ってくれ。暁葉子のためにも、わが社第一と考えてくれよ」
「ハ。わかりました」
 そこで煙山は、安心して、東京へ戻った。敷島社長に以上の話をすると、上野光子の話がそこまで出来かかっている以上、ひくわけにはいかない。
「よろしい。約束通り、大鹿をとろう。今日の夕方までに五百万そろえておくよ」
「そうですか。カバンを持って、うけとりに来ます
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