は成りがたいものであつた。呉喜大臣云々といふ書出しからして、これはいはゆる講談本と同種であり、恰度僕が長崎へ出発の数日前大井広介氏が送つてくれた「天草騒動」といふ本、これは早稲田出版部の「近世実録全書」といふ中に収められてゐるものだが、題は違ふが内容は同一物のやうに思はれた。尤も僕は「金花傾嵐抄」を甚だ簡単に拾ひ読みしたゞけで、照し合せたわけではないから、正確に同一物だとは言へないが、多分同一物だらうと思つた。

 これによると一揆鎮定の主役であり花形の松平伊豆守が作戦下手の愚劣な風に書かれてゐて、そのあたり目先が変つてゐるけれども、結局講談本でしかなく、一揆側から出たかも知れぬといふ想像は、ちと、うがちすぎてゐるやうだ。
 僕が一種みつけたといふ、やゝそれらしい記録といふのは、この本のことではない。

       (中)

 その本は、「高来郡一揆之記」といふ。上中下を一冊にまとめた写本である。尤も同じ図書館に「南高来郡一揆之記」といつて南の一字加はつた写本もあり、之は上中下三冊になつてゐるが、内容は同じ物で、前者の方が誤写や脱字が尠《すくな》いやうに思はれた。
 この本の筆者は判
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