に白が咲いた、さういふ事実にあてはまるやうに作つた伝説であつた。
 この地下運動はその年(一六三七年)の旧六月から表面に現れ、彼等は天草一円に切支丹の説教をはじめ、又、島原半島へも、及んだ。天使と担がれた天草四郎は、伝説の中の生き神様になるだけの天質があつたのだ。美貌と、神童の叡智であつた。彼は自ら、壇上に立つて説教し、諸方に信者ができた。
 十月二十五日、島原領有馬村を発火点として一揆が起きた。その十日前、十月十五日に、天草の方では次のやうな廻文が廻つてゐるのである。

 態《わざ》と申進候天人天降り被成供せんちよふむていは天主様より火のすいちよ被成候間何者なりとも吉利支丹《きりしたん》に成候はゞ爰許《ここもと》へ早々可有御越候村々庄野乙名草々御越可有候島中に此状御廻可有候せんちよ坊にてもきりしたんに成候はゞ被成御免候恐惶謹言。
  丑十月十五日[#地から2字上げ]寿庵
 右早々村々へ御廻し可被成候天人の御使に遣申候間村中の者に御中付可被成候吉利支丹に成不申候はゞ日本六十六ヶ国共に天主様より御足にていんへるのに踏込なされ候間其分御心得なさるべく候天草の内大矢野に此中被成御座候四郎様と
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