うなものだが、それから何十年、洋の東西を問わず何千何万の探偵小説家がみんな同じ型をふむばかりか、それだけが探偵小説の本道だという思いこみ方で、他の芸ごとに比して、探偵小説がいかに幼稚な、無知性的な状態に安住しているかということがわかる。
描写や表現の形式に於て、かくの如くに幼稚であるということは、要するにトリックに於ても幼稚であることを意味している。つまり、合理性を欠いているのだ。しかも当の作者は合理性を欠いていることに気付かず、あべこべに、ウヌボレをもち、不合理のトリックが不合理の故に正しい解答を得られぬことをさとらず、わが頭脳優秀の故に読者に犯人がわからないと考える。
物理学だの数学だの生物学だのと、一般人に通じない知識をひけらかしても何にもならないものだ。物理学は物理学の専門家に向って価値を問うべきもの、探偵小説は物理学の応用などで値打をますべき性質のものではない。これだけの幼稚な理窟も理解せられていない探偵小説界の知性の貧困というものは言語道断と申さねばならぬ。
犯罪という人間心理の秘奥について物語を作りながら、くだらぬ学術をふりまくばかりで、人間そのものについて、何ら誠
前へ
次へ
全7ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング