探偵小説とは
坂口安吾

 推理小説というものは、文学よりも、パズルの要素が多い。
 制作の方法から見ても、一般の文学と推理小説では根柢から違っている。
 一般に小説というものは、執筆に先立って、構想せられた一応の筋はあるけれども、書きすゝむうちに、かねての構想をみだして作中人物が勝手な行動を起し、おのずから展開発展して行くところに、文学の創作という意味もあるのであろう。予定の構想通りに書ききれたり割りきれてしまっては、創造という作業は行われない。なぜなら、文学は、自我の発見であり、常に予定をハミ出して、おのずからの生成展開が行われることによって、自我の発見とか創造というものが行われ得るのである。
 推理小説は、こうは行かない。
 犯人は誰で、如何なる理由によって、如何にして殺人を犯し、如何にアリバイをつくっておいたか、小説の最後に於て解き明かされる事柄が、構想の最初に於て、明確に、予定せられておらなければならず、執筆の途中で、作中人物が構想をハミだして勝手なことを始めたのでは、おさまりがつかない。
 つまり、実際に犯罪がすでに行われ、そこにヌキサシならぬ犯人がなければならぬタテマエな
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