ものを、執筆の途中から、犯人がスリ代っては、話にならない。予定をハミだすことのできない性質のものだ。
 だから、推理小説の原則は、文学よりも、パズルで、パズルとしてメンミツに計量され、構想された上で、それをヒックリ返して、書きすすめて行くものである。
 日本には、今まで、一口に探偵小説と称しても、主として怪奇小説であり、推理小説というものは殆ど行われていなかった。
 だいたい推理というものは、論理的な民族に愛好される性質のもので、日本古来の文化教養には論理性が不足していたから、推理小説も発達する地盤がなかったのかも知れない。
 一方に又、推理小説は職業化すると書けなくなるという性質がある。なぜなら、パズルというものがマンネリズムになっては、パズルの魅力を失うから、常に新手をあみださなければならぬ。
 ところが、パズルの新手は、すべての独創と同様に、自分の既成の視角を切りくずして、新角度を見出すところから始まるという性質のものであるから、一生涯に無限にあみだされるというものではない。まれにアガサ・クリスチィのような、一作ごとに新手を用い、多作しながら変化をつづける天才的な作家もありうるけ
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