いふものになつたにしても、かういふ形にはならなかつたに相違ない。要するに小林の魂は生長しつゝあつたから、戦争の影響を受けて生長した。彼はたぶん、真実、愛国者であつたであらう。彼は戦争には協力しなかつたが、祖国の宿命には身を以て魂を以て協力した。そして彼は知らざる戦争の、否、殉国の愛情の影響によつて、いつかずる/\と日本的諦観の底へ沈みこんで行つたのだ。
 愛国の情熱は羞ぢ悲しむ必要は毫もない。小林は戦争に協力せず、たゞ、祖国の悲痛なる宿命に協力したのである。
 真実己れを愛する人は隣人を愛し、祖国を愛し、人類を愛し、人間を愛するであらう。なんとまあ、日本の作家は戦争と共に変貌しなかつたことよ。彼等はそろつて変貌した、形だけ。
 然し小林が戦争の影響によつて、「無常といふこと」の如き諦観へ落ちこんで行つたことに就ては、多くの論ずべきことがある。彼はイコヂで、常に傲然肩を怒らして、他に対して屈することがないやうに見えるけれども、実際は風にもそよぐやうな素直な魂の人で、実は非常に鋭敏に外部からの影響を受けて、内部から変貌しつゞけた人であり、この戦争の影響で、反抗や或ひは逆に積極的な力の論者と
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