小説以上の深さ高さを持たない。
 農民作家は往々農村の人間性以上に生活様式の描写を文学の問題としたがるやうだ。

   (二)[#「(二)」は縦中横] 結婚の生態と作者の生活

 石川達三氏の『結婚の生態』は石川氏が愛情なく同棲した女と別れ、健全な結婚を目標にしてその生涯の建設を企ててから、つひに女を探し得て結婚生活に入り、子供をもうける二年間ほどの記録である。
 この記録に語られてゐる石川氏の生活は、すべてその人生観が土台であり、結婚生活がそれに沿ふて着々築かれて行くのであるが、人生観と生活が一読羨望に堪えないくらい食ひ違ひがなく、破綻をみせない。この作品の強味もこゝにあり、また最大の弱点もこゝにあるのだと僕は思ふ。
 これに就いて、思ひ出したひとつのことがある。死んだ嘉村礒多氏は殆ど社会と没交渉な生活を送り、肉親達と又特に妻君とのせまい交渉の内部だけで執拗に内省しながら筆を執つてゐた人であるが、従而《したがつて》、その夫婦生活がいはば必死で縋り合つてゐるかのやうに親密無二であつたらしい、嘉村氏の死後、その妻女の良人の追想など哀切で、至高の貞女をしのばせるものがあつた。
 そのころ宇
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