長島の死
坂口安吾

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)従而《したがって》

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(例)全部[#「全部」に傍点]
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 長島に就て書いてみたところが、忽ち百枚を書いたけれども、重要なことが沢山ぬけてゐるやうな気がして止してしまつた。長島は私の精神史の中では極めて特異な重大な役割を持つてゐるので、私の生きる限りは私の中に亡びることがないのである。従而《したがって》、今あわただしく長島の全てに就て書き尽すまでもなく、これからの生涯に私の書くところの所々に於て、陰となり流れとなつて書き尽されずには有り得ないであらう。今は簡単に長島の死に就て書くことにする。

 私の知つてゐるだけでも、長島は三度自殺を企てた。その都度、遺書、或ひは死に関する感想風のものを受けとるのは私の役目――全く役目のやうであつた――であつたし、同時にその家族に依頼を受けて、死に損つた長島と最初の話を交すのも私の役目であつた。考へてみると、実に根気よく自殺を企て、根気よく失敗したものだと思ふ。無論、酔狂や狂言の自殺ではなかつたのである。一度は
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