ずには止まないたちの、宿命として何事によらず追ひつめられるたちの男であつたのだらうと考へてゐる。彼の死にあひ、さて振返つてみると、実に凄惨な男であつたと言はざるを得ない。彼ほど死を怖れた人間も尠《すくな》いのであらう。彼の自殺といへども所詮は生きたいためであつた。彼もそれを百も承知してゐたが、彼の生涯を覆ふた一種奇怪なポーズは、彼を自殺へ走らせずにはやまなかつた。全く、彼の奇怪なポーズは私の想像能力をも超えてゐるかに思はれる。殆んど現実の凡ゆる解釈を飛びこえて、不可解な宿命へまで結びついてゐるとしか考へられない。
 丁度このクリスマスの前夜に、また長島の危篤の電報を受けとつた。ところが、十二月の初めに、四五通のやや錯乱した手紙とここへ載せてある「エスキス・スタンダアル」の原稿とを受けとつてゐたので、又自殺するのだらうといふ予感を懐いてゐた。馴れてゐるので驚きも慌てもする筈はない。さりとてこの自殺は私の力でどうすることもできないことが分つてゐるので、ほつたらかしておいたのである。寧ろ、これまでの例で言ふと、なまじひに留めだてに類することをしたばかりに却つて死に急がせる結果をまねいたことも
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